2026.10コラム

お灸が熱くなかった日のこと

今から30年ほど前、私自身が体験した話です。

当時、私はバイクで通勤していました。ある朝、車と接触して転倒し、道路に左肩を打ちつけてしまいました。そのときは痛みも少なかったので、そのまま仕事場へ向かいました。

ところが、時間がたつにつれて痛みはだんだん強くなり、とうとう腕が挙がらなくなってしまいました。このままではバイクで帰れません。何か自分でできることをしようと思い、幸い右腕は使えたので、左肩にお灸をすえることにしました。

お灸には、いくつもの種類があります。このとき選んだのは、米粒の半分ほどの小さなもぐさを肌に直接のせて、火をつける方法です。本来は、一瞬熱さを感じるお灸です。身構えながら、線香で火をつけました。

ところが、熱くならないのです。正確に言えば、何も感じません。もぐさは、もう燃えつきています。

「こんなことがあるのか」と思いながら、2壮(そう)、3壮と回数を重ねていきました。壮は、お灸を数える単位で、1回が1壮です。すると、お灸をすえている所から少しずれた場所に、ようやく温かさを感じ始めました。それでも、まだ熱くはありません。

さらに十数壮くり返して、やっと、お灸をすえたその場所で熱さを感じました。その日は、なんとかバイクを運転して帰ることができました。

以前、「このお灸を100壮しても何も感じない」という方がいました。当時の私は、そんなことがあるのだろうかと、不思議に思っていました。

けれども、体の調子が悪いときは、痛みが強くなるだけでなく、感覚まで鈍くなってしまうことがある。そのことを、自分の体で初めて知りました。

熱いものを、熱いと感じられる。当たり前のことを、当たり前に感じられる。それは本当にありがたいことなのだと、あらためて思いました。

当たり前に、感謝。

※ 文中のお灸は、私が自分の体で試したときのものです。当院のお灸は熱くなったら取り除きますので、熱さを我慢していただく必要はありません。

八綱療院別所 院長 柴田 幸昌

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